羽金山−女岳−浮嶽−十坊山:6月4日(晴れ)

朝起きると喉が痛い。何で休日に限って体調が悪くなるのか。昨日の通勤電車咳き込んでいた人のせいか。などと思いながら、用意していたザックに弁当を詰め込んで出発。今日は脊振山地縦走西部の残り、羽金山から十坊山までを歩く予定だ。7:20発の地下鉄で筑前前原へ向かう。前原駅南口から8:00発のバスに乗り、8:30、白糸バス停着。乗客は私一人。以前、走って下りてきた沢沿いの道を登る。20分ほどで白糸の滝に到着。トイレを済まし、羽金山山頂まで続く舗装路を上り始める。舗装路は日差しが直射するため、先日買ったつばの広い帽子を被る。一時間ほどで「はがね山標準電波送信所」のゲートに到着(9:55)。ここからが西側が未踏ルートになる。施設のフェンス沿いに西へ下る。


今週初めの雨のせいか、道がぬかるんでいる。株立ちしている姿が印象的な潅木の林を抜け、河童山山頂に寄る。分岐の道標には「展望良し」とあったが、羽金山が少し見える程度だった。今日は長丁場なので先を急ぐ。776mのピークで一服。相変わらず喉が痛い。地図を見ると、荒川峠まで結構距離があるようだ。植林帯をひたすら進む。途中、3人連れの高齢者ハイカーとすれ違う。11:40、荒川峠着。峠で一服していると、近くで伐採作業をしていた初老の男性が、道端に停車していた車を指差して「これはおまえのか」と言うので、違う違うと首を振る。そのお爺さんが、杉の丸太を積んだトラックから降りてきて、傍まで来た。「あんなところに車を停めたら作業できない」とか「峠に降りてくる途中で誰かに会ったか」などと訊いてくるので、3人連れとすれ違ったことを告げる。その後も、延々10分ほど登山者のマナーの悪さを聞かされる。まあごもっともなのだが、そもそも件の車は私のものではないし、ちょっとうんざりする。そのお爺さんに別れを告げて、女岳を目指す。登山口は峠への降り口の正面にあった。


単調な植林帯をしばらく登る。植林帯を抜けると巨石の点在する急坂になった。ヘビ数匹と遭遇。シマヘビ、ヤマカガシなど。急坂を登りつめると眼前に全長10mはある舟形の巨石が現れた。上で寝たら気持ちいいだろうなあ。舟形巨石から1分ほどで女岳山頂に到着(12:50)。そうとうくたびれた。山頂には誰も居ない。座り込んでスポーツドリンクを飲む。今日は女岳から下りたら帰ろうと思う。弁当を食べる。喉が痛くて食べづらい。頭上でずっとクマバチが飛び交っている。持参した鎮痛剤を飲む。20分ほど休憩し、荒谷峠方面へ下山。かなり斜度のきつい急坂を滑り下りる。ヘビ数匹と遭遇。やたらヘビの多い山だ。13:30、荒谷峠着。予定より早く着いたので、浮嶽まで行ってから帰ることに決める。『山と高原地図 福岡の山々』(2007)によれば、車道を少し北側(福岡方面)へ下ったところに登山口があるようだ。峠から車道を10分ほど下りるが、登山口が見当たらない。峠に戻って、「浮嶽方面」とある林道へ入る。5分ほどで林道脇から入る浮嶽への登山口が見つかる。ちょっと地図のデータが古いようだ。林道沿いの暗い登山道を歩く。


木々の間からピラミッドのような山容をした浮嶽が見える。あれを今から登るのかと思うとやや気が滅入る。背振山地羽金山から西側の山々は、登山道がジグザグ型ではなくて、なぜかすべて直登・直下型になっている。あまり人が入らないからなのだろうか。植林帯を抜けると、トラ柄ロープが張ってある急坂になった。落ち葉で足が滑り、すこぶる登りづらい。途中、白龍稲荷があったが、立ち寄る余裕はなかった。これで最後だと言い聞かせ、なんとか浮嶽山頂に辿りついた(14:45)。ここも誰も居ない。お社があったので、皆の健康を祈願する。霞んでいたが、糸島半島西部、姫島などが眺望できた。10分ほど休憩して、白木峠方面へ下る。落ち葉で埋もれた急坂を滑り降り、ゴルフ場を左手に見ながら植林帯を進む。途中、丸々としたタヌキに遭遇。500mlのペットボトルを4本持参したが、2本はすでに空になり、残り2本も合せて300mlぐらいしか残っていなかった。白木峠に自販機があることを願う。車道脇のコンクリート壁に付けられたステップを下りて、白木峠に到着(15:45)。当然自販機など無い。地図によれば、ここから福吉駅までは車道を2時間歩かなければならない。目の前の十坊山登山口には「山頂まで30分」とある。こうなればやけくそだ。十坊山まで行って、後は適当に下りることにする。


手持ちの水分が残りわずかだったので、水分消費をセーブするために、額からたれる汗をなめながら最後の登りへ歩み出す。今日中に十坊山まで行けたら、行政区分上(厚生労働省が勝手に決めた目安にすぎないが)の中年になる前に、背振山地縦走を達成したことになる。明日は誕生日だ。登り始めてすぐに、下山してきた家族連れとすれ違う。奥さんが「下までまだまだですか」と訊くので、「5分もかかりませんよ」と応える。すると「山頂まではまだまだですよ」と返された。身体・精神両面で限界に来ていた身にはなかなか厳しいフレーズ。十坊山というかわいい名前から少しなめていたが、ここも、これまでの山々と同じく一直線の急坂。急坂と過ぎると、植林したと思われる広葉樹の並木道に出た。その整然とした並木が、ドラクエ世代ならわかると思うが、お城へ帰還した時のラッパを吹く衛兵のように見えた。16:10、十坊山山頂到着。


誰も居ない山頂の大岩に上がる。鎖伝いに上がるのだが、案外、体のバランスを取るのが難しい。西側にもう山は無い。霞に浮かぶ唐津湾の島々が見える。遠く東松浦半島も望める。岩の上でしばし放心。360度に開けた風景を何度も見回す。唐津方面を向いては、玄海原発に何かあったらここもダメかもなあなどと思う。予定では、県境沿いに海岸まで下りて、包石というポイントまで下るつもりだったが、事前に調べたところ、道が無い模様。しかし、少しでも西端まで「縦走」距離を伸ばしたかったので、アンポピュラーな南西方面のコースを下りることにした。途中で、あわよくば包石方面に下りられたらいいかなと思いつつ(これが失敗)。


16:25、山頂を後にして、南西登山道を谷口方面へ下る。ほとんど誰も通っていないようで、下り始めから踏み後もよく分からない状態。比較的新しい赤テープをたよりに、道というか斜面を下っていく。自然林を抜け、植林帯に出る。しばらくして包石方面に下れそうな斜面があったので、あえて赤テープを無視して下ってみる。最初は順調に高度を下げられたが、植林帯を抜けると徐々に藪が濃くなり始め、思うように下れない。炭焼き小屋の廃屋や、昭和の頃のものと思われるヤカンなどが散らばる幅広の林道跡地に出たが、左右どちらに進んでも、藪が密生していて先へ行けない。大きめのヘビがいたり、薄気味悪い。もうダメだなと思う。遭難した。引き返そう。ふもとから17時の時報が聞こえる。ルートを外れて降りてきた藪の急坂(というか崖)を登るのは本当につらい。水もほとんどなく、何度か足もつった。ちょっと落ち着こうと横になる。足のつりがおさまるのを待って、ゆっくりゆっくり登り返す。40分ほどで何とかテープのある場所へ戻った。今度はテープを見失わないようにひたすら斜面を下っていく。十坊山はかなり奥深いようだ。


随分下って、ようやく轍のある林道へ出た(17:40)。しかしどちらへ行けばふもとの集落へ下りれるのかわからない。地図を見ると右方面が海岸なので、右へ行くことにした。途中で、広大なブドウ?畑に出くわす。畑の傍の小屋に水が引かれていた。生水はやばいかなと思いつつ、喉が渇いていたので思わず2、3口飲んでしまう。ひたすら林道を歩く。林道が草で覆われていたりして不安になりつつ、仕様がないので歩き続ける。山深いため、ふもとの様子が全然見えず、不安になったが、竹林を抜けると、ようやく谷口の集落が見えた。集落へ下り(18:20)、庭先で犬と遊んでいたオジサンに公衆電話のありかを尋ねる。ここらあたりには無いとのこと。すると、すぐさま携帯電話を貸してくれた。ありがたい。家に電話を入れ、無事下山したことを伝える。オジサンに礼を告げ、浜崎駅へ向かう。途中で見つけた自販機でコーラを買い、一気に飲み干す。浜崎駅に着いたのは19:00だった。近くのホカ弁でのり弁当を買い、駅舎で食べて、19:24分発の普通電車で家路に就いた。


歩行距離:25.4km


脊振山地縦走の軌跡


補遺:脊振山地細切れ縦走について
【かかった日数】 8日間(「鬼ヶ鼻岩−井原山」はテント泊)

【よかった場所】
(1)椎原から鬼ヶ鼻岩:何度も登っているが、アクセスの良さ、沢の気持ちよさ、展望の良さで◎。
(2)金山の佐賀県アゴ坂あたり:緩やかで雑木林も美しい。
(3)坂本峠から九千部山:前半は面白くないが、後半の幅の広い道はとても気持ち良い。

【反省点】
あたりまえだけど、道標、赤テープを無視してはならない。道なき道を行けるのは、時間帯が早く、よほど体力に余裕がある時ぐらいか。水分は多めに持っていくこと。まあ怪我が無くてよかった。週末に向け体調管理を心掛ける。